ご挨拶


 若いころに人に言えなかったことがあります。それは、自分のセラピーがあまりに稚拙に思え、同僚や臨床仲間の後塵を仰ぐばかりで、上達するためにどうしたらいいかわからない、という時期がありました。もちろん研修があればできるだけ受けましたし、決して自分だけで何とかしようと思っていたわけではありません。でも、 自分が子どもや保護者の役に立てている気持ちにはなれませんでした。

 そんな自信のない私を支えてくださったのは、クライエント体験や個人スーパービジョンの機会を設けてくださった先生方と、職場の仲間たちでした。しかし、どうしても「このままでは自分に足りないものが補えないのではないか」という危機感が強く、30代になったころ、積極的に学会や臨床心理士会など知り合いがあまりいない 場所でのケース検討に臨むことにしました。当時、知己の少ない場に赴く抵抗も少なくなく、それに対抗するために、私はこの試みを「道場破り」と称したのでした。当然のことですが、私は手練れではないので、「道場荒らし」だったのかもしれません。

 ただ、この試みから得られたものはとても大きいものでした。数年すると自分に足りないものが見えてくるようになったのです。もっと足りないものに気がついたので、40代になったころ、新たな臨床の挑戦をすることになりました。本当に貴重なトレーニングの場でした。 今大会のテーマは「プレイセラピストのトレーニング」です。構造的でシステマティックなトレーニングから得られる技術は貴重ですが、臨床の、総合力とでも呼ぶしかないような自分なりのセラピーの軸を見出すためには、また別の次元の体験が必要になるのではないかと思います。本大会では、そのヒントになるようなシンポジウムを企画いたしました。大会終了後に、参加者のみなさんが「何か」の気づきを手にされることを願っています。

日本遊戯療法学会第29回大会大会長 村松 健司(放送大学)